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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)8679号 判決

原告

山本一郎

右訴訟代理人

酒井信雄

稲毛一郎

被告

大住政一

右訴訟代理人

相馬達雄

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一  原告

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録(五)記載の建物東側の二、三及び四階の通路の東端の手すり(各階につき別紙図面イからロまでの部分)計三か所に、高さ1.6メートル、長さ18.9メートルのエスロン波板等の合成樹脂板あるいはこれに類するものをもつて目隠を設置せよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行宣言

二  被告

主文同旨の判決

第二  主張

一  請求原因

1  原告の所有する別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「原告所有地」という)は、被告の所有する同目録(二)ないし(四)記載の各土地(以下、「被告所有地」という)の東側に隣接する宅地であり、原、被告所有地の境界線は、南北方向に直線をなしている。

2  被告は、昭和五四年九月一〇日ころ、被告所有地に別紙物件目録(五)記載の建物(以下、「本件建物」という)を建築し、これを所有している。本件建物は、原、被告所有地の境界に沿つて建てられているマンションで、境界線に面する建物東側には、別紙図面のとおり北東角に階段があり、二ないし四階には、階段から南へ居住部分への通路(以下、「本件通路」という)が設けられているが、本件通路の原告所有地に最も近い東端から境界線までの距離は、六〇センチメートルにすぎない。

3  本件通路は、本件建物の縁側にあたる。仮にそうでないとしても、原告所有地は、本件建物の居住者、外来者らによつて本件通路から観望されうる状況にあるのだから、目隠を設置すべきかどうかを判断するにあたつては、本件通路は、窓及び縁側と同列に扱われるべきである。

4  よつて、原告は被告に対し、民法二三五条に基づき、本件通路の手すり計三か所に目隠を設置するよう求める。

二  請求原因に対する認否

第1、第2項は認める。第3項は争う。

三 抗弁

原、被告所有地の付近においては、本件建物のようなマンションの通路部分には目隠を設置しない慣習がある。

四 抗弁に対する認否

争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因第1、第2項の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、本件通路が民法二三五条一項にいう「縁側」にあたるか、あたらないとしても、これと同列に扱われるべきかどうかについて判断する。

〈証拠〉によると、本件建物の二ないし四階部分には、四戸づつの区分住宅があり、最も南側の各一戸を除く各戸は、西側部分にバルコニーを、東側に玄関口を、最も南側の各一戸は、西側部分にバルコニーを、北東側に玄関口を、それぞれ有し、本件通路は、幅約1.6メートルで居住者らが建物北東角に設置されている階段から各区分住宅の出入口に至る通路として利用するため設置されているものであること、各区分住宅の本件通路に出入するための玄関口は、それぞれ独立しており、最も南側の各一戸を除く各戸には、本件通路との間に窓が設置されていることが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、居住者にとつて、自己の生活などの様子を隣接地からながめられることがないということが、権利として保護に値する利益であることはいうまでもない。しかし、これを実現するため、隣接地の利用者にあるゆる措置をとることを要求することは、隣接地の利用者に強いる負担として過大であり、民法二三五条は、その意味で、宅地の隣接地の利用者に強いる負担を、境界線より一メートル未満の距離に窓又は縁側を設置した場合これに目隠を付することに限定することによつて、両者間の均衡をはかつたものと解される。そして、対象を窓又は縁側に限定した趣旨は、それらが、独立した単位の居住空間と外部との接点とみなされたからに他ならないと解するべきである。言い換えれば居住の一環として存在するなかで隣接地をながめる隣人の視線は、恒常的なものであるから、それからは目隠をもつて保護されて然るべきであるが、そうでない場合は、目隠をするほどのことはない、とする判断がそこに含まれているといえる。

前述したところによると、本件通路は、各区分住宅の一部ではなく、これとは独立の通路であり、居住空間の延長とみることはできない。したがつて、本件通路は、民法二三五条にいう「縁側」とはいえず、また、これと同列に扱うこともできないといわなければならない。〈以下、省略〉

(寺田逸郎)

物件目録〈省略〉

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